AIツールを導入したのに売上が上がらない。その原因は「ワークスロップ」と呼ばれる現象と、組織設計の問題にあります。Speeeが1年でROIを2倍にした現場事例から、EC・マーケ担当者が学べることを整理しました。
AIで生産性は上がった。なのになぜ儲からないのか
要点:日本企業のAI活用率は5割を超えているが、「期待を大きく上回る効果」を得た企業は1割程度にとどまっています。AIが生む”見かけ倒し”の成果物を研究者たちは「ワークスロップ」と呼び、安易な活用がかえって業務を非効率化させると指摘しています。
生成AIを導入している会社は今や珍しくない。でも「AIを入れたら売上が上がった」という話は、思ったより聞かない。
PwC Japanの調査によると、日本企業のAI活用率は5割を超えた一方、「期待を大きく上回る効果」を得た企業は1割程度にとどまっており、米国との差は縮まっていないとされています。さらにパーソル総合研究所の調査では、生成AIで浮いた時間の6割超が仕事に再投下され、その多くが定型報告や問い合わせ対応といった「いつもの業務」に吸収されていることが示されました。
AIが増やしたのは「仕事をした感」だった、という話です。
スタンフォード大学の研究者たちはこの現象を「workslop(ワークスロップ)」と命名しました。低品質なAI出力が積み重なり、むしろ業務を非効率化させる状態のことです。見栄えは良いが内容が薄い資料、文脈に合わない提案書、修正工数のほうがかかるドラフト——心当たりがある担当者は多いはずです。
Speeeが1年でROIを2倍にした方法。「AI民主化」の中身
要点:Speeeのセールスアナリシスチームは1年で、コスト前年比110%に対して利益創出額前年比200%を達成しました。成功の鍵は「高度な技術より小さな成功体験の積み重ね」と、「組織ROIをKPIに置いた責任者設計」でした。
Speeeのマーケティング責任者・藤井慧里氏が公開した事例は、「ワークスロップ現象」を起こさなかったチームの話です。
同社のセールスアナリシスチームは、実質稼働人数を半分以下に削減しながら同じ仕事量をこなし、商談資料の品質向上により受注率も改善させました。AI有料アカウント費用を加えてもコストは前年比110%、利益創出額は前年比200%。組織ROIは約2倍になったとされています。
何が違ったのか。当時新卒5年目のマネージャーが打った手は「高度な技術より、身近な課題への小さな一手」でした。最初に作ったのは、商談資料のストーリーを壁打ちするだけのAIツールです。「先輩からダメ出しされるストレスを減らしたい」という現場の困りごとから始めました。
便利さを実感したメンバーが自発的に「これもAIでいけるのでは」とリストアップし、試して、良ければ全員で使う——この繰り返しが工数削減と品質向上を同時に実現しました。
現場で感じるのは、この話の本質は「AIツール」より「責任者の設計」にあるということです。このチームでは「AX推進責任者のKPIを組織全体のROI」に設定していました。売上・利益を追う人間がAX推進を兼ねていたため、「ROIが合わないプランは採用しない」という判断が一貫して機能しました。
| ワークスロップが起きる組織 | ROIが上がった組織(Speee事例) |
|---|---|
| AI専門家主導・トップダウン | 現場のカイゼンベース・ボトムアップ |
| KPIが「AI活用率」「工数削減数」 | KPIが「組織全体のROI」 |
| 大きな効率化を一気に狙う | 小さな成功体験を積み重ねる |
| 空いた工数が「いつもの仕事」に消える | 空いた工数で若手が新領域に挑戦 |
EC・マーケ担当者への示唆。「AI活用」の前に問うべきこと
要点:ツールを入れる前に「このAI活用はROIが合うか」「誰が責任者でKPIは何か」を問うことが、ワークスロップを防ぐ出発点です。
健康食品・美容ECの現場でも、AI活用の失敗パターンは似ています。「とりあえずChatGPTで商品説明を量産した」「AIで広告文を自動生成したが承認工数が増えた」「レポートをAIにまとめさせたが結局作り直した」——これらはすべてワークスロップです。
Speeeの事例から現場で使える問いを整理するとこうなります。
「便利そう」「時間が減りそう」ではなく「どの数字が改善されるか」を先に決める。広告文の生成なら承認通過率とCVR、議事録の自動化なら会議後作業時間と情報共有のスピードが指標になります。
AI活用の推進者と売上・利益の責任者が別の人間である組織では、ワークスロップが起きやすいです。Speeeの成功は「利益責任者がAX推進を兼ねた」ことにあります。担当者レベルでも「この活用は自分のKPIにどう効くか」を問う習慣が重要です。
「全社的なAI化」より「自分のチームの一番面倒な作業」から始めることが、Speeeが示した最短経路です。使えるとわかれば現場が自走します。
まとめ

- AIで生産性が上がっても利益が上がらない原因は「ワークスロップ」——低品質なAI出力が積み重なり業務を非効率化させる現象です。日本企業の多くがこの状態にあります。
- Speeeが1年でROI2倍を実現した核心は「組織ROIをKPIに置いた責任者設計」と「現場の小さな成功体験の積み重ね」でした。AI専門家主導のトップダウンではこのスピード感は出なかったと当事者が明言しています。
- EC・マーケの現場でAI活用を進めるなら、ツールを入れる前に「このAI活用は何のROIを改善するか」を問うことが出発点です。
よくある質問
Q. 「ワークスロップ」はどうすれば防げますか?
AI出力をそのまま使わず「この出力は事業価値を生んでいるか」を問う習慣が基本です。具体的にはAI活用のKPIを「工数削減時間」ではなく「その工数削減がもたらした利益」に設定することが有効です。
Q. 小さな会社でも同じアプローチは使えますか?
むしろ小さい組織のほうが「カイゼンベースのAI活用」は機能しやすいです。意思決定が速く、現場と経営が近いため「これはROIが合わない」という判断が早くできます。Speeeの事例も、新卒5年目のマネージャーが動き始めたことが起点でした。
※参照:「AIで生産性は上がったのに、なぜ儲からないのか?ROI 2倍を実現した組織作りから紐解く、AXのカギ」MarkeZine(藤井慧里氏)

