犬の認知機能ケアを訴求する商品が、動物病院でもペット用品店でも増えています。背景にあるのは犬の高齢化と、「治療できないなら、早めにケアしたい」という飼い主意識のシフトです。本記事では、犬の認知症の実態と市場拡大の構造を、国内データをもとに整理します。
犬の認知症は10歳頃から見られ始め、根本的な治療薬がない現状から「早期ケア」への関心が高まっています。ただし、人間向けのエビデンスをそのまま犬に適用している成分も一部あり、「犬での研究があるか」を確認する視点が重要です。
犬の認知症はどれくらい見られるのか
要点:犬の認知症は10歳頃から見られ始め、高齢になるほど発症率が上がるとされています。

犬の認知症(認知機能不全症候群)は、脳の老化によって認知機能が低下する疾患です。といった行動の変化が主な症状とされています。
獣医行動診療科認定医の小澤先生が行った調査では、14歳以上の犬の約15%に認知症の兆候が見られるという結果が報告されています。発症は10歳頃から見られ始め、12歳以上で急増する傾向があるとされています。
犬の平均寿命が延びるなかで、認知症に直面する飼い主が増えているのは自然な流れです。筆者も15歳・20kgの雑種(保護犬)を飼っています。歩行や食欲に大きな変化はないものの、以前と比べて名前を呼んだときの反応がゆっくりになったと感じることが増えてきました。「うちの子もそのうち…」という不安が、早めのケアへの関心を後押ししているのは、多くの飼い主に共通する感覚ではないでしょうか。
| 項目 | データ・傾向 |
|---|---|
| 発症が見られ始める年齢 | 10歳頃から。12歳以上で急増する傾向 |
| 14歳以上の認知症兆候 | 約15%(獣医行動診療科認定医・小澤先生調査) |
なぜ「治療」より「ケア」が重視されるのか
要点:犬の認知症には現在、根本的な治療薬が存在しません。だからこそ「早期ケア」への関心が高まっています。

犬の認知症の治療において、現時点では根本的に回復させる治療薬は存在しないというのが、国内外の獣医師・動物病院の共通した見解です。治療の目的は「病気の進行を遅らせ、症状を緩和すること」に置かれています。
人間の認知症でも同様の状況が長く続いてきましたが、犬の場合はさらに選択肢が限られます。行動療法・環境の工夫・食事管理・サプリメントなどが補完的なアプローチとして取り入れられていますが、いずれも「治す」ものではなく「支える」ものという位置づけです。
「治せないなら、なるべく遅らせたい」「兆候が出る前から備えたい」という飼い主の意識が、認知機能ケア市場を押し上げている直接的な要因と見ることができます。治療の限界が、予防・ケア市場の拡大を促しているという構造は、人間の認知症市場とほぼ同じ動きです。
行動療法(脳への刺激・適度な運動)、環境整備(迷子防止・怪我防止)、食事管理、サプリメントの活用などが補完的なアプローチとして取り入れられています。根本的な治療ではなく、進行を遅らせ生活の質を維持することが目的とされています。
認知機能ケア市場はなぜ今伸びているのか
要点:高齢犬の増加と「治療できないなら備えたい」という意識のシフトが、市場拡大の構造的な背景にあります。

富士経済の調査によると、シニア犬・老犬向けの訴求を強化した犬用サプリメントは市場で存在感を増しており、認知機能ケアを訴求する商品カテゴリは近年特に拡大しているとされています。動物病院ルートでも、認知機能ケアに関連した商品の取り扱いが増えているという動きが見られます。
市場全体として見ると、矢野経済研究所の調査では2023年度のペット関連総市場は前年度比4.5%増の1兆8,629億円に達しており、シニアペット向けの健康ケア関連商品がその成長を牽引する分野の一つとされています。
市場が伸びている構造は明快です。高齢犬が増える→認知症に直面する飼い主が増える→治療の選択肢が限られる→予防・ケア商品への需要が生まれる、という一本の因果が成立しています。これは関節ケア・デンタルケア・腸活と同じ「予防シフト」の流れが、認知機能ケアでも起きているということです。
| 項目 | データ・傾向 |
|---|---|
| シニア犬向けサプリ市場 | 認知機能ケア訴求商品が近年拡大傾向(富士経済) |
| ペット関連総市場(2023年度) | 1兆8,629億円・前年比4.5%増(矢野経済研究所) |
| 市場拡大の構造 | 高齢犬増加→認知症増加→治療薬なし→予防市場拡大 |
「人間に良い成分」は犬にも有効なのか
要点:犬の認知機能ケアサプリで使われる成分の中には、人間向けのエビデンスをそのまま流用しているものがあります。「犬での研究があるか」を確認する視点が重要です。

犬の認知機能ケアサプリでよく使われる成分は、DHA・EPA・フェルラ酸・イチョウ葉エキスなどです。このうちDHA・EPAについては、犬に投与した際の臨床症状や血液流動性の改善が報告されている研究があり、犬での使用根拠が一定程度存在します。
一方で、フェルラ酸・イチョウ葉エキスは、人間の軽度認知障害や認知機能ケアを対象にした研究が先行しており、犬専用のエビデンスは現時点で限られています。ペット業界では「人間での研究結果があれば犬にも使える」という前提で商品開発が進むケースが少なくありません。しかしこれは、犬と人間では生理機能や代謝が異なるという点で、科学的に慎重に扱うべき問題です。
認知機能ケアでも「その成分の研究対象は人間か犬か」を確認するという見方が、今後の市場の成熟とともに広がっていく可能性があります。
- DHA・EPA:犬への投与による改善報告あり。犬での使用根拠が比較的ある成分
- フェルラ酸:人間の認知機能ケア研究が先行。犬専用の研究は現時点で限られる
- イチョウ葉エキス:同様に人間での研究が先行。犬への有効性・安全性は別途確認が必要
まとめ

要点:認知機能ケア市場の拡大は「治療できないから備える」という構造的な動きです。成分選びには「犬でのエビデンスがあるか」という視点が今後より重要になります。
犬の高齢化が進むなかで、認知症に直面する飼い主は増え続けます。根本的な治療薬が存在しない現状では、予防・ケア市場の拡大は必然の流れです。一方で、市場の成長とともに「人間向けのエビデンスを犬に流用している成分」の問題も表面化してきています。飼い主として、また市場全体として「犬専用の研究があるか」を問い続けることが、この市場の健全な発展につながると考えます。
- 犬の認知症は14歳以上の約15%に兆候が見られ、12歳以上で発症率が急増する
- 根本的な治療薬が存在しないため、早期ケアへの関心が高まっている
- 高齢犬の増加→治療の限界→予防市場の拡大という構造が市場を動かしている
- DHA・EPAは犬での研究報告があるが、フェルラ酸・イチョウ葉は人間のエビデンスが先行しており、犬専用の研究確認が必要
よくある質問
要点:犬の認知機能ケアについてよく聞かれる疑問をまとめました。
発症は10歳頃から見られ始めるとされています。夜鳴きや徘徊など行動の変化に気づいたら、早めにかかりつけの獣医師に相談することが基本的な対応とされています。
サプリメントは「治す」ものではなく「支える」位置づけです。DHA・EPAなど犬での研究報告がある成分もありますが、効果には個体差があります。獣医師に相談しながら取り入れるのが安心です。
人間用の成分が犬に適しているとは限りません。成分の代謝や有効量は犬と人間で異なるため、犬向けと明記された製品を選ぶことが基本です。
※参照:獣医行動診療科認定医・小澤真希子先生の調査(dyplus西麻布)、富士経済「ペットビジネスマーケティング便覧(2024年・2023年)」、矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査(2024年)」、本町獣医科サポート「犬の認知症とDHA・EPAに関する情報」、各動物病院の認知症に関する診療情報

