犬の歯周病はなぜ増えている?デンタルケア市場の変化をデータで読む

犬の歯周病の実態

犬の歯周病は、なぜこれほど多くの犬に見られるのでしょうか。そしてデンタルケア市場は、なぜ今これほど拡大しているのでしょうか。本記事では、国内外の調査データをもとに、犬の歯周病の実態と、それが市場にどう影響しているかを整理します。

この記事のポイント

犬の歯周病は3歳以上の約8割に見られるとされ、加齢とともにリスクが上がります。歯周病は口の中だけの問題ではなく、全身の健康とも深く関わっているとする調査報告も出てきています。予防意識の高まりが、デンタルケア市場の拡大につながっている流れを整理します。

なぜ犬の歯周病はこれほど多いのか

要点:犬の歯周病は3歳以上の約8割に見られるとされ、5歳を過ぎると罹患率が急増する傾向があります。

歯周病のサイン

「うちの子、口臭がきつくなってきた」と感じたことはありませんか。実はそれ、歯周病のサインかもしれません。VCA動物病院の報告によると、3歳以上の犬の78〜80%が何らかの歯科疾患を抱えているとされています。犬の歯周病は、決して特別な病気ではなく、むしろ「多くの犬がなるもの」に近い状態です。

アニコム損保が契約者約3,600名を対象に行った調査では、犬の歯周病罹患率は5歳あたりから急増することが確認されています。また、体重が軽い小型犬ほど罹患率が高い傾向も明らかになっています。小型犬は顎が小さく歯が密集しやすいため、歯垢が溜まりやすい構造にあるためとされています。

なぜここまで多いのか。人間と違って、犬は自分で歯を磨くことができません。毎日のケアを飼い主が担う必要がありますが、習慣として定着させるのは簡単ではありません。加えて、柔らかいフードやおやつが中心の食生活では、歯垢が落ちにくい状況が続きます。カリカリ(ドライフード)には歯垢を物理的に落とす効果があるとされていますが、それでも完全な予防にはならないというのが現実です。

項目 データ・傾向
3歳以上の犬の歯科疾患罹患率 78〜80%(VCA動物病院調べ)
罹患率が急増する年齢 5歳前後から著しく増加(アニコム損保調べ)
犬種傾向 小型犬ほど罹患率が高い傾向(同調査)

歯周病が「万病の元」と言われる理由

要点:犬の歯周病は口の中だけの問題ではなく、全身の健康リスクと関連しているとする調査報告があります。

犬の歯周病が全身の健康に影響

歯周病と聞くと「歯がぐらぐらする」「口が臭い」といったイメージが先行しがちです。しかし近年、する可能性を示す研究結果が出てきています。

アニコム損保の研究グループが2024年に日本口腔科学会で発表した調査によると、腸内に歯周病関連菌が検出された犬は、そうでない犬と比べて、調査対象となった15の疾患分類のうち11分類、すなわち約73%の疾患において有病率が上昇していたことが明らかになっています。この結果について同社は「犬においても歯周病が万病の元である可能性が一定程度示唆された」としています。

もちろん、これはあくまで関連性を示す調査であり、因果関係が確定したわけではありません。ただ、「口の中を清潔にしておくことが、全身の健康維持にもつながりうる」という視点は、人間の医療でも長く言われてきたことで、犬でも同様の傾向が見られる可能性があるということです。

歯周病関連菌と全身疾患(アニコム損保・2024年発表)

腸内に歯周病関連菌が検出された犬は、15の疾患分類のうち約73%(11分類)で有病率が上昇。加齢とともに腸内に歯周病関連菌が検出される割合も上がるとされています。

小型犬ほど歯周病リスクが高い理由

顎が小さく歯が密集しているため歯垢が溜まりやすい構造にあるとされています。体重が軽い犬ほど罹患率が高い傾向がアニコム損保の調査でも確認されています。

歯周病の進行は静かに進む

初期段階では口臭や歯石の付着程度で、痛みの症状が出にくいのが特徴です。気づいたときには進行していたというケースも少なくないようです。

高齢犬と歯周病の現実——処置できないまま向き合う

要点:高齢になると全身麻酔のリスクが上がるため、重度の歯周病でも処置に踏み切れないケースがあります。

若いうちからの予防が最も有効

犬の歯科処置(スケーリングや抜歯)は、基本的に全身麻酔下で行われます。これは、犬が処置中に動いてしまうことを防ぐためです。しかし高齢になるにつれて、全身麻酔に耐えられるかどうかのリスク判断が複雑になります。心機能や腎機能の低下が見られる老犬では、麻酔のリスクが若い犬と比べて相対的に高くなるとされています。

筆者も、15歳・20kgの雑種(保護犬)を飼っています。幸いこの年齢にしては歯の状態は比較的きれいな方だと言われています。カリカリ中心の食生活も一因かもしれませんが、正確な理由は分かりません。それでも15歳という年齢では、獣医師から「全身麻酔はリスクがある」と言われる状況です。重度に進行していたとしても、処置を選びにくい、という現実があります。

これは、多くの老犬の飼い主が直面する問題でもあると思います。「もっと早くからケアしておけばよかった」という声をよく聞きます。歯周病は、若いうちからの予防が最も有効であり、高齢になってから手を打てる選択肢が限られるという点が、他の多くの疾患とは少し異なる点です。

年齢・状態 デンタルケアの現実
若齢・成犬期 スケーリング・歯磨き習慣・ケア用品で予防しやすい
シニア期(7歳〜) 麻酔リスクの個体差が出始める。早めの処置判断が重要
高齢期(10歳〜) 全身麻酔リスクが上がり、処置の選択肢が限られるケースも

デンタルケア市場はなぜ今伸びているのか

要点:「歯磨きができない」という現実が、多様な代替商品の需要を生み出し、市場拡大を後押ししています。

デンタルケア市場

矢野経済研究所の調査によると、2023年度のペット関連総市場は前年度比4.5%増の1兆8,629億円に達しており、そのなかでもオーラルケア・デンタルケア用品は参入企業の啓発活動が活発で、今後も市場は伸長するとの見方が示されています。

ではなぜ、デンタルケア市場はこれほど拡大しているのでしょうか。その背景には、「歯磨きが続かない」という飼い主の現実があります。ライオンペット株式会社が2022年に全国1,600名の飼い主を対象に行った調査では、犬のオーラルケアを継続できている「成功者層」はわずか20.7%にとどまりました。別の調査でも、9割以上の飼い主が毎日の歯磨きを実施できていないという結果が出ています。最大の理由は「犬が嫌がって抵抗する」こと。これは多くの飼い主が共感する、リアルな壁です。

この「歯磨きの習慣化の難しさ」が、デンタルガム・液体タイプ・スプレーといった代替商品の需要を生み出しています。噛むだけでいい・水に混ぜるだけでいい・吹きかけるだけでいい、という商品は、歯ブラシを嫌がる犬にも取り入れやすいという点で支持されているようです。つまり市場の多様化は、「より良い商品を求めた結果」ではなく、「そもそも歯磨きができない飼い主の代替手段として生まれた」という側面が大きいと見ることができます。

人間の健康食品市場でも、「続けられる形に変える」という商品設計が市場を動かしてきました。ペットのデンタルケア市場でも、同じ構造が起きているというのが、現場での実感です。

  • 歯磨きタイプ:最も効果的とされるが、習慣化のハードルが高い
  • デンタルガム・おやつ:習慣化しやすく、手軽さで選ばれやすい
  • 液体・スプレータイプ:水や食事に混ぜるだけで使えるため継続しやすい
  • 獣医師によるスケーリング:全身麻酔下での処置。定期的に受けることで進行を防ぎやすい

まとめ

記事のまとめ

要点:犬の歯周病は非常に多く、しかも高齢になるほど対処が難しくなる。だからこそ、早めのケアが意味を持ちます。

3歳以上の犬の約8割に見られるという歯周病は、「特別な病気」ではなく、放置すると静かに進行していく「日常のリスク」です。全身疾患との関連性を示す研究も出てきているなかで、デンタルケアを「口臭が気になったらやる」から「日常の健康管理のひとつ」に位置づける動きは、飼い主の意識としても市場の動きとしても、着実に広がっています。

まとめ
  • 3歳以上の犬の78〜80%が歯科疾患を抱えるとされ、5歳から罹患率が急増する
  • 歯周病関連菌が腸内に広がると、約73%の疾患で有病率が上昇するとの報告がある
  • 高齢になると全身麻酔リスクが上がり、処置の選択肢が限られるケースもある
  • 予防意識の高まりと製品の多様化を背景に、デンタルケア市場は拡大傾向が続いている

よくある質問

要点:犬のデンタルケアについてよく聞かれる疑問をまとめました。

Q. 犬の歯磨きは毎日しないといけませんか?

理想は毎日とされていますが、難しい場合は週数回から始めるのも一つの方法です。液体タイプやデンタルガムを組み合わせて習慣化のハードルを下げることも有効とされています。

Q. スケーリングはどのくらいの頻度で受けるべきですか?

犬の状態や歯石の付き方によって異なります。かかりつけの獣医師に定期的に口腔内をチェックしてもらい、必要なタイミングで相談するのが基本的な考え方です。

Q. 老犬でもデンタルケアはできますか?

ケア用品を使ったホームケアは年齢を問わず取り組めます。ただし麻酔を伴う処置については、年齢や体の状態によってリスク判断が必要なため、必ず獣医師に相談することをおすすめします。

※参照:VCA動物病院の歯科疾患罹患率データ、アニコム損保「犬の歯周病に関する調査」、アニコム損保「がんを含む全ての疾病予防に係る共同研究」(2024年・第78回日本口腔科学会発表)、ライオンペット株式会社「愛犬のお世話(ケア)に関するスクリーニング調査」(2022年)、ペット長寿国プロジェクト「犬の歯と健康に関する調査」(2014年)、矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査(2024年)」